感想:高橋久美子『いい音がする文章』

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読書メモ

いい音がする文章 / 高橋久美子

元チャットモンチーのドラマーであり小説家・エッセイスト・文筆家である高橋久美子さんが語る、文章にまつわるエトセトラが書かれた本。 一通り読んで感じたことがあるので、感想文らしきものを残しておきます。

著者の世界観

本書の主張という言い方はちょっと違う気がするので書き方を変えると、著者が本書で伝えたいのは、『文章にはその書き手が持つ「音」が現れるのだ』という世界観じゃないかと思う。

副題にはあなたの感性が爆発する書き方とあるものの、たぶんこれは編集者によるもので、筆者の考えはあくまでも『文章には「音」がある』という一点なのだろう。

実際、ほとんど全編が著者の世界観を補強するための具体的事例の紹介や所感で占められていて、文章術的な記述は圧倒的に少ない。「そういったノウハウや、定型的な書き方に囚われてしまうことこそが、あなたが本来持つ「音」を毀損するのだ」ということでしょう。

一応、第 4 章と第 5 章の間のコラムに作詞指南が書かれているものの、これは単体で効果のあるものというよりは、ちゃんと自分なりの「音」を持った人が、朗らかに「音」を奏でることができるようにするための手引きという感じ。

文章の「音」

こういうことを書くと気持ち悪いと思われるかもしれないんだけど、私は自分の書く文章が結構好きで、このサイトに書いた記事はもちろん、過去 EC サイトに自分が書いたレビューを「いやぁやっぱりそうだよなウンウン」みたいに読み返すことすらあります。

でも、その中でも「いい文章が書けた」と思えるものと、「なんかいまいちだな」とか「もっとこう書いたらよかったな」と思う文章がそれぞれあるわけです。

で、これって、自分の好きな「音」があって、それがちゃんと出せてるかどうかが、無意識の評価軸として存在していたんじゃないかと。

翻訳書を読んでて、どうも読みにくいなと思うことが多かったり、同じようなジャンルでもすらすら文章が入ってくる作家と、あんまり入ってこない作家がいたりする、というのは、本を読む人なら誰でも経験したことがあると思うんだけど、これも全部「音」が違うんだと思えばしっくりくる。

特に翻訳書なんて、原作者の「音」を再現することはほとんど不可能だろうしな。

私も著者と同じく、文章を頭の中で音読するタイプの人間なので、音としての響きや流れを感じ取っていたんだろう。

これが本書で得た一番の気づき。

いい音を奏でよう

エピローグの題目が生き方が音をつくるというのが、本書からのメッセージだと私は思っています。

人にはそれぞれ、自分だけの物語から生まれてくる、本来の音がある。それを上手に奏でよう。それを聴かせてほしい。多彩な音があふれる世界であってほしい。そういうメッセージ。

私もそういう世界が見てみたい。だからこの文章を書きたくなりました。

結構人を選ぶ本だと思います。偏見かもしれませんが出版社がダイヤモンド社なのも意外で、「面白切り口文章術」のビジネス本だと思って買うと、かなり変な感じになります。

私は、「文章を書く・読む」という行為を、楽しく有意義にするためのプリミティブな視点を教えてくれる(あるいは思い出させてくれる)、そんな本だと思いました。読んでよかったです。

ちなみに、この文章を公開前に読み返してみましたが、なかなか上手に自分の音が出せてると思います。こういう自分なりの評価軸を持てるという点でも、楽しい本です。